公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2002年度[第11期]
2002年6月15日/白峰 遊月山荘
映画と人生

『板東妻三郎・王将』

高橋治
高橋 治/(財)白山麓僻村塾特別顧問。小説家。元松竹映画監督。1929年生まれ。84年『秘伝』で直木賞を受賞。88年任意団体「白山麓僻村学校」を立ち上げる(僻村塾の前身)。96年『星の衣』で吉川英治文学賞。ほか作品多数。
 敗戦国日本のエネルギーが一挙に注入されたのが「映画」だった記憶がある。阪妻の『王将』もその一編だ。映画の黎明期に「白山のように」そびえたった男が、戦争の傷跡から立ち上がる「人間の力」を見事に表現している。白黒映画に最初は戸惑うかもしれない。だが「色がない」ことは、作品の「足りない要素」にならない。白黒でありながら「色」を感じさせる撮影技術があるし、白黒ならではの味もある。また色が揃えば、過不足なく表現できるかというとそうでもない。例えば、色がない音楽に色を感じること、平面的な絵画に奥行きを感じることがあるだろう。芸術のとらえどころのない難しさがここにある。それは人間の生き方にも関わってくる。何もかも不足がなければ人間は果たして幸福なのか。考えねばならないところだろう。