公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

平成15年度[第12期]
平成15年11月15日/白峰 望岳苑

知里幸恵とアイヌの世界

池澤夏樹
池澤 夏樹/(財)白山麓僻村塾塾長。小説家、詩人。『スティル・ライフ』芥川賞、『母なる自然のおっぱい』読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』谷崎潤一郎賞、『すばらしい新世界』芸術選奨。芥川賞選考委員。沖縄在住。
『アイヌ神謡集』を残した知里幸恵の生誕100年だ。

 彼女はアイヌに生まれ、民族の物語の継承に力を尽くし、若くして死んだ。かつてアイヌの物語は口承によって幾世代にも渡り、語り継がれていた。常に時代時代の先端の才能が受け継いだ物語を磨き上げてきたから、そこには人の心の普遍性につながる深さがあった。また様々な教訓があった。子供たちはそれを聞いて、生きていくためのルールを身につけた。その伝統が近代になって崩れた。和人(内地の日本人)がアイヌの土地に入り込んで、彼らの言葉、風俗を禁止したからだ。もう次の世代に伝えられないという状況で知里幸恵が生まれた。そして失われようとした物語を文字で記録した。アイヌの文化的伝統、生き方、彼らが持っていた「幸福」を見直す必要があるいま、知里幸恵の果たした仕事は大きい。