公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

平成16年度[第13期]
平成16年8月28日/白峰 望岳苑

書く人と読む人

川上弘美・辻原登・湯川 豊
川上 弘美/1958年、東京都に生まれる。小説家。96年『蛇を踏む』で芥川賞。2000年『溺レる』で女流文学賞。2001年『センセイの鞄』で谷崎賞。ほか作品多数。

辻原 登/1945年、和歌山県に生まれる。小説家。東海大学文学部教授。90年『村の名前』で芥川賞。99年『翔べ麒麟』で読売文学賞。2000年『遊動亭円木』で谷崎賞。ほか作品多数。

湯川 豊/1938年、新潟県に生まれる。東海大学文学部教授。64年文藝春秋に入社し、「文学界」編集長、常務取締役を経て2003年退社。読売新聞書評担当。
 近代小説への道を開いた作家にスタンダールがいる。彼は18世紀最大のエンターテイメントであったオペラと芝居に憧れ、オペラ作家をめざした。が、挫折して小説書きになった。
  彼が小説を書いたのは「舞台への復讐」という見方もある。が、それ以上に、小説という新しいジャンルのなかに「人間のドラマ」を描くことが最適だと思えるものを見つけ出したのではないか。小説が生まれた背景を探ると、古代より物語を享受してきた人間の歴史と伝統に突き当たる。「神話」から始まり、それぞれの時代がそれぞれの物語を生み出してきたが、そこには必ず「物語を作る人、それを享受する人」という関係性があった。近代以前は、物語の作り手と受け手が「集団」であったが、近代からそれが「個人」へと変化していった。物語は小説という新しいメディアを通じ、読書という形をとって「個人」へと入り込んだ。物語はことばと密接な関係がある。ことばを使うということ自体が実は、物語性を常に持っている。小説を書いていて、平凡なことばを重ねただけなのに、知らないうちに物語になっていることがある。それがことばの凄さであり、ことばが物語性につながることではないか。書くことの醍醐味を実感するのもそんな時だ。