公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2007年度[第16期]
2007年6月16日/白峰 望岳苑

キートンと出会う

高橋治
高橋 治/(財)白山麓僻村塾特別顧問。小説家。元松竹映画監督。1929年生まれ。84年『秘伝』で直木賞を受賞。88年任意団体「白山麓僻村学校」を立ち上げる(僻村塾の前身)。96年『星の衣』で吉川英治文学賞。ほか作品多数。
 バスター・キートン。不朽の名声を映画史に残した男だ。バスターというのは芸名で、何もかもめちゃくちゃにするという意味。その破壊的な滑稽さは他にまねる人がいない。よく喜劇王といわれるチャップリンと比べられる。だが、私はチャップリンを支持しない。それはチャップリンの前にキートンがいるからだ。
  キートンの真骨頂はすさまじいアクションと乾いた笑いだ。スタントマンを使わず、どんな難しい演技も彼自身が演じた。そして決して笑わなかった。俳優としてこう生きるべきだという確固たる哲学と品位が彼の映画からは漂ってくる。
  キートンの死後、彼を再評価したのはヨーロッパだった。ちょうどその頃、私はパリに留学していた。だから、その熱気を今でも鮮明に覚えている。映画は伝統ある文化だ。チャンスがあったら、見逃さないでほしい。私はパリで偶然、小津安二郎の作品を見た。あらためて新たな発見があり、自分はこういう映画を作った国の人間なのかと誇りに思った。それが後年、小津を小説に書く一つの動機にもなった。
  キートンの存在を知らない人も多い。彼の魅力を次の世代に、今度はみなさんと一緒に伝えていきたい。