公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

平成19年度[第16期]
平成19年9月8日/白峰 望岳苑

優雅でのんきな
辻原式小説作法

『花はさくら木』の周辺
辻原登
辻原登/1945年、和歌山県に生まれる。小説家。90年『村の名前』で芥川賞。2000年『遊動亭円木』で谷崎賞。ほか作品多数。
 日本語の文字の歴史は、中国から漢字が入ってきたときに始まる。西暦1〜2世紀ころだ。それまで日本には文字がなかった。だから文字が何を意味しているのか。それを知るために人々は必死で中国語を学んだ。
  中国語で読み書きを行い、やがて中国語で法律を作るまでになった。だがやはり自分たちの「声のことば(日本語)」を書き留めるシステムが必要になった。そこで漢字の音を利用する「万葉仮名」を、さらには漢字を日本語で読み取る「訓読み」を発明した。これによっていまに続く音訓併用の日本語のシステムは完成した。
  古事記、万葉集、神話をはじめとするあらゆる物語がこのシステムによって書き留められた。それは次第に洗練され、紫式部は完璧な日本語で世界最高の長編小説を作った。これは中国で長編小説が出るよりも早かった。 日本人は文字を手に入れることで優れた物語を数多く残した。ただ、多くの物語は「聞く」ものであった。それが「文字で読む」という現在のスタイルに変わったのは明治維新による近代化によってだ。印刷技術と新聞の発達、そして夏目漱石らのすばらしい新聞小説がそれを推し進めた。 小説を読む、その背景には実はこんな歴史があることも知ってほしい。