公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2008年度[第17期]
2008年4月29日/白峰 望岳苑

須賀敦子を読む

湯川豊
湯川豊/1938年、新潟県に生まれる。(財)白山麓僻村塾評議員長。東海大学文学部教授。64年文藝春秋に入社し、「文学界」編集長、常務取締役を経て2003年退社。その間、敏腕編集者として数々の作家を育て上げた。優れたエッセイストとしても知られ、著書に『イワナの夏』がある。現在、毎日新聞書評を担当中。
 希有のエッセイスト、須賀敦子の没後10年になる。彼女が生涯に残したエッセイはわずか5冊に過ぎない。だが、全集が刊行されるほど多くの人に支持されている。 カソリック教徒であった須賀は、若い頃ヨーロッパに魅せられ、イタリアに留学。そこで暮らし、イタリア人と結婚した。夫と死別し、帰国。その後、上智大学で教鞭を執りながら、イタリア文学の翻訳に携わった。61才で初のエッセイ集となる『ミラノ霧の風景』を出版。それが非常に高い評価を得た。文章の完成度が高く、その出現はある種の驚きでもあった。 須賀は若い頃から本を書く人になりたと考えていた。しかし様々な事情から、書けなかった。だがイタリアでナタリア・ギンズブルグの『ある家族の会話』に 出合ったとき、それを手本にして書きたいと強く思った。その思いが20年後に結実した。
 須賀のエッセイは単なる回想ではない。むしろ自分を語らずに、ヨーロッパで吸収したこと、出会った人々を、正確に、「ほとんど小説の場面を作るようにして」再現している。須賀は物語を語ることで、自分の体験をいわば生き直し、再現して見せたのだ。だから、読者はいきいきと彼女の体験を共有し、そこにある人生に深い共感を覚えることができる。そんな須賀の世界はとても魅力的だ。ぜひ味わってみてほしい。