公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2008年度[第17期]
2008年7月12日/白峰 望岳苑

世界文学とは何か

池澤夏樹
池澤 夏樹/(財)白山麓僻村塾理事長。小説家、詩人。『スティル・ライフ』芥川賞、『母なる自然のおっぱい』読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』谷崎潤一郎賞、『すばらしい新世界』芸術選奨。芥川賞選考委員。
 個人編集による世界文学全集を刊行中だ。かつてあった古典から始まるような全集と違い、「今」を起点としているのが特徴だ。
  第二次世界大戦が終り、今の世界の基本ができた。植民地が独立し、国の数が増え、人の動きはどんどん活発になった。そして、9・11同時多発テロが起こり、現在がある。そういうところで人はどう生きてきたか。今だけの問題があるし、人間が昔から抱えてきた問題もある。様々なことがあるが、それらを全部重ねて、我々がいる。ならば、我々がいるこの世界を読み解くために、必要な文学とは何か。そんな視点から作品を選んだ。
  結果的に、全集の中に二つの顕著な方針が生まれた。一つはポストコロニアリズム。植民地から独立した後の状況から生まれた作品群。もう一つはフェミニズム。女性の立場からの物の見方、考え方、生き方を、前に押し立てて書いている作品群だ。振り返れば、戦後というのはやはりそういう時代だったと言えるのではないか。
  世界文学とは何か。一言で言えば、翻訳してでも読むに値するものだ。例えば、日本で言えば、宮澤賢治。彼が扱った問題は普遍的なことだった。だから、他の国の人が読んでも面白いし、意味がある。そういうものが国境を越えるのだ。国境を越えて伝えられる文学をぜひ味わってほしい。