公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2010年度[第19期]
2010年8月18日/白峰 望岳苑

朗読 石の微笑み

青木裕子
青木裕子/朗読家。元NHKアナウンサー。NHKではニュース番組のキャスターを務めたほか「ラジオ深夜便」などで朗読番組の制作・朗読を行った。著書に『再婚トランプ』。
日本語の朗読は簡単なようで難しい。英語などと違い、書き言葉と話し言葉が非常に離れているから、普通に読んでいてもなかなか伝わりにくい。だから、自分の心の中で思い浮かべる情景を、聞き手に正しく届けるためには、書き言葉をしゃべっていることのようにイントネーションでつなげていく必要がある高橋治先生の「石の微笑み」は一人称で書かれている。しかも、とても美しい文章だ。これを朗読していると、「書き言葉と話し言葉」の絡み合った糸玉のような関係が、気持ちよく解けていくような気分になる。いつのまにか高橋治の世界にスッと入って、自分と主人公の区別がつかないくらいになる。最初は、主人公の女性をたおやかな人として読んだ。金沢に思いを馳せ、年齢は行っているけれど、可愛らしさがあって、ちょっと儚さがあるような。しかし、読み込んでいくうちに、それが変わった。実は、肩ひじ張って、精一杯生きてきた強い女性ではないか、と。彼女の心の中には父親の存在があった。美しい思い出を秘めた、金沢が息づいていた。だからこそ強くなれたし、頑張ることができた。そんなふうに思えて、胸を熱くしながらこの作品を朗読した。いつか高橋先生にも聞いてもらいたい。