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憲法なんて知らないよ・池澤夏樹
憲法なんて知らないよ池澤夏樹
平成25年5月11日/午後2:00〜・白峰 望岳苑
憲法なんて知らないよ池澤夏樹
池澤夏樹/白山麓僻村塾理事長。小説家、詩人。日本芸術院会員。1945年生まれ。『スティル・ライフ』芥川賞、『母なる自然のおっぱい』読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』谷崎潤一郎賞、『すばらしい新世界』芸術選奨、ほか著書多数。


 今日は憲法の話。簡単に結論には至れない。憲法の問題については、実にたくさんの課題があって、考えるためには視野に入れなければならないことが非常に多い。最終的には、国家とは何か。われわれはどういう国を持てるか、めざすべきか、そういう大きな問題に向かうことになる。
 いま一番手前にあるのは、96条の改正問題だ。96条は憲法そのものを改正する手続きを定めるものだ。政府は、国会議員の<三分の二>の賛成によって始められるその手続きを<二分の一>に変えたいと思っている。これはその先に、いろいろとやりたいことがあるからだろう。だが、そのやり方はアンフェアだ。ゲームの途中で選手がルールを変えてしまうに等しい。
 憲法改正を求める人たちは、今の憲法がアメリカの押し付けだというが、そうだろうか。
 日本は先の戦争に負けた。勝っていたのは最初の数ヶ月。あとは押される一方で、止めるきっかけがつかめなかった。それが三年続き、最後には、東京大空襲、沖縄戦、広島、長崎。もう無理だ、国が滅びると敗戦を決めた。それから、日本国をどういう形にしていくか、アメリカ主導で議論が始まった。まずアメリカが日本の指導者に命じたのは新しい憲法を作ることだった。それに対して、日本は「大日本帝国憲法」を手直しして提出した。もちろん、アメリカに突っ返された。そういうやりとりのあと、アメリカは若いアメリカ人たちに日本の憲法の草案を作らせた。それは一言でいえば、近代、ヨーロッパやアメリカが培ってきた自由、民主、平和、それらをずいぶん理想主義的に具体化したものだった。だが、日本人はこれを熱烈に歓迎した。なぜなら、もう戦争をしなくていいから。
 憲法は、そもそも国の力を制限するものだ。国は強すぎるから、歯止めをかける。これが世界が時間をかけて築いた国家論だ。だが、その一方で、自在に国境を越えるようになった企業を前に国が力を失いつつある現実もある。そんなことも含め、これからどういう国を設計していくべきか、それが今後何十年かの課題となるだろう。一人ひとりが考えていくべきだ。
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