公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2003年度[第12期]
2003年10月5日/白峰 望岳苑

なぜ小説を書くのか

高樹のぶ子・辻原登子
高樹 のぶ子/1946年、山口県に生まれる。小説家。84年『光抱く友よ』で芥川賞。99年『透光の樹』で谷崎賞。ほか作品多数。

辻原 登/1945年、和歌山県に生まれる。小説家。90年『村の名前』で芥川賞。2000年『遊動亭円木』で谷崎賞。ほか作品多数。
(辻原)「なぜ小説を書くか」と問われたら「小説を読んだから」と答えるしかない。「書くこと」は「読むこと」だ。この「読む・書く、書く・読む」という一連の作業に僕は取り憑かれている。ドン・キホーテは自分が読んだ空想の世界と、現実の世界の区別がつかなくなって、冒険に出かけた。僕もまた「同じようなものに感染し」小説を書いている。

(高樹)「自分が作る世界を信じ込む」ことでしか小説は書けない。それを疑ってしまえばダメになる。書く才能は、まず自分が作る世界に溺れることだ。だが、それは自分のことを客観視できないことでもある。そこで編集者の目が必要になってくる。作家の本能として限りなく「真実」に近づきたい欲求がある。だがすべてが上手くいくとは限らない。それでも近づけると信じることでしか小説は始まらない。