公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2005年度[第14期]
2005年4月28日/白峰 望岳苑

少年とラクダ

高橋治
高橋 治/(財)白山麓僻村塾特別顧問。小説家。元松竹映画監督。1929年生まれ。84年『秘伝』で直木賞を受賞。88年任意団体「白山麓僻村学校」を立ち上げる(僻村塾の前身)。96年『星の衣』で吉川英治文学賞。ほか作品多数。
 この映画は私が監督として作った最後の作品だ。砂漠を舞台に、童話のような作品ができないか、と書き下ろしたものだ。舞台は中東戦争の緊張が続くイスラエルの砂漠。主人公は遊牧民の少年とキブツの少女、そしてラクダだ。撮影は国境付近、イスラエルの砂漠なのか、アラブの砂漠なのか、微妙な場所だった。砂漠にはところどころに地雷が埋められており、危険と隣合せだった。
  イスラエルとアラブが今なぜこういう面倒なことになっているのか。そのことを考えると暗澹たる気持ちになる。イギリスが、パレスチナに住むアラブ人には独立、ユダヤ人には国家建設という矛盾した約束をしたことが原因だろう。作品の中に、ジェリコの街が出てくる。聖書にも出てくる歴史ある街だ。中東戦争によってアラブ領からイスラエル領になった。だが、あの美しい街を作ったのはアラブの人たちであるという事実を忘れてはならない。 砂漠の地に暮らす人々、キブツという集団生活を営む人々を通して、親と子のつながりや友情、国境そして対立に翻弄される子どもたちの姿を描いた。一方、映像面では砂漠の美しさを伝えたいと思った。この映画を見て、「ああいう土地が地上にはあるんだ」ということを知ってもらえば嬉しい。