公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2005年度[第14期]
2005年8月6日/白峰 望岳苑

フランス報告

池澤夏樹
池澤 夏樹/(財)白山麓僻村塾理事長。小説家、詩人。『スティル・ライフ』芥川賞、『母なる自然のおっぱい』読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』谷崎潤一郎賞、『すばらしい新世界』芸術選奨。芥川賞選考委員。
 フランスに渡り一年が過ぎた。暮らしている街は清楚だが、新しくはない。借りている家は18世紀のものだ。街の景観は調和が優先され、統一感があって美しい。街全体に「必ずしも最新のものを追いかける必要はない」「古いものを残す」という気持ちが働いているようだ。
 社会は大人中心で子供は隅っこ。中古車が高値。スーパーマーケットはあるけれど、個人商店も元気。総じて、日本ほどのスピードで社会がまわっていない。そのことが何よりも自分には心地よい。
 フランス人は政策について納得できなければ絶対に譲らない。スト好きは有名だが、最近のEU憲法の国民否決は典型的なものだ。彼らが大事にしているのは「個人の考え」だ。だから日常生活においてもよく議論が始まる。それを聞いていると、ある意味、日本よりもずっと速やかに変わっていくところもあるのではないかと思う。
  戦争の記憶をつなぎ止めるための仕掛けがよく考えられている一方で、フランスは核兵器を持った相当な軍事力がある国だ。電力の七割が原発で、都市と地方の力の格差も大きい。そういう問題はいろいろあるが、「なるほど」と思うことも実に多い。異国の客として、それらを母国に伝えていきたい。