公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2005年度[第14期]
2005年11月12日/白峰 望岳苑

あなたは
スタルヒンをみたか

辻原登
辻原登/1945年、和歌山県に生まれる。小説家。90年『村の名前』で芥川賞。2000年『遊動亭円木』で谷崎賞。ほか作品多数。
「枯葉の中の青い炎」という短編小説を書いた。スタルヒン三百勝達成の瞬間を劇化した物語だ。ここには四人の実在の人物が出てくる。サモアで暮らし、現地人から「物語作者酋長」として慕われ、小説を書き続けた、かの『宝島』の作者スティーブンソン。その姿を、半世紀あとに伝記小説『光と風と夢』に残した中島敦。国を追われ、日本のプロ野球選手として活躍したロシア人、スタルヒン。そして同じく島を追われ、プロ野球選手となり、スタルヒンとチームメイトになった南洋の大酋長アイザワ・ススムだ。
  彼らはシャーマニックな世界、目に見えない世界と交流しながら生きている人たちだった。作家二人は文学を通じて、もう二人は人生を通じて。そんな四人が時間と空間を超えて「僕の中」で出会った。
  この出会いを作家として放っておけない、物語にするしかないと思った。そのためには具体的なシーンを用意しなければならない。それが1955年9月4日、スタルヒンの三百勝がかかった試合の光景だった。
  時間と空間を超えて様々な出会いがある。現実にも出会いがたくさん起きる。それを描くのが物語だと思う。どういう風にうまく語られているか、そこに小説の醍醐味があるのだろう。