公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2006年度[第15期]
2006年5月2日/白峰 望岳苑
ひと模様映画模様〜映画

『非情の男』

高橋治
高橋 治/(財)白山麓僻村塾特別顧問。小説家。元松竹映画監督。1929年生まれ。84年『秘伝』で直木賞を受賞。88年任意団体「白山麓僻村学校」を立ち上げる(僻村塾の前身)。96年『星の衣』で吉川英治文学賞。ほか作品多数。
 この映画は60年安保のなかで生まれた。当時、安保に対し、小さな声を積み上げて、自分たちの態度を表明したい、そんな思いが私を含めた映画人にはあった。だがそれは次々に潰されていくことになる。有名な例は、大島渚の『日本の夜と霧』だ。浅沼事件を契機に、わずか4日間で上映中止になった。私の作品も例外ではなかった。社会のアウトローたちが右翼を名乗っていく過程を描いたことで、撮影中からさまざまな脅迫があった。そのため編集の段階で、配給会社の政治的配慮が働き、削除やリテイクなど本意でないことがあった。その結果、自分の中では別の作品になってしまった思いがある。 ただぜひとも見て欲しいのは俳優たちだ。すばらしい脇役がこの映画を支えてくれている。(作家に転身後)直木賞のパーティで、大島渚が「高橋は、スターを使って映画を作ろうとしない。だから監督として失敗たんだ」とスピーチをしたが、個性的な俳優たちとの出会いは私にとって忘れられないものだ。

  何かを表現する方法として映画を選んだ。それは、映画が世の中を変えうる可能性を持っていたからだ。日本には今、いい監督たちがいる。彼らには、志を高く持ち、本物の人間のドラマを作ってほしい。