公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2006年度[第15期]
2006年8月31日/白峰 望岳苑
映画

『ゴメスの名はゴメス』

高橋治
高橋 治/(財)白山麓僻村塾特別顧問。小説家。元松竹映画監督。1929年生まれ。84年『秘伝』で直木賞を受賞。88年任意団体「白山麓僻村学校」を立ち上げる(僻村塾の前身)。96年『星の衣』で吉川英治文学賞。ほか作品多数。
  この作品の本当の舞台は戦時下のベトナムだ。だが、当時の状況では現地に簡単には入れない。だから映画は場所を変え、香港を舞台にした。数年後、入国が楽になり、何度となく現地に入った。そこでベトナム戦争の実態というものをまざまざと見た。
  日本で、戦争の実態を自分の体験として掴んでいる人たちは、昭和5、6年生まれの人たちまでではないか。戦火が自分の周りを取り巻く、そんな体験を持っている人間にとって、最近の戦争についての語られ方には首を傾げることも多い。自分だけは助かる、自分には戦火が及ばないと考えてはいけない。今、語られている戦争の話と実際の戦争とは全く違う。普通の市民がもうあれは結構だ、ああいう目に二度と遭いたくないというのが戦争なのだ。 この作品の映画化に関して、原作者の結城昌治さんから何の注文もなかった。それだけに結城さんの伝えたかったことをスクリーンで表現しなくてはならないと強く思った。それが、芥川比呂志さん演ずる通信員の持つ戦争体験につながった。
  エンディングに「君いつ帰る」という歌を使った。日本版リリーマルレーンだ。こういう歌が、敵味方を問わず、戦争を忌避する人間たちの心を惹き付けた。そんなことを頭の片隅において、この作品を御覧いただければと思う。