公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2007年度[第16期]
2007年11月25日/白峰 望岳苑 

源氏物語の女性たち

湯川豊
湯川豊/1938年、新潟県に生まれる。(財)白山麓僻村塾評議員長。東海大学文学部教授。64年文藝春秋に入社し、「文学界」編集長、常務取締役を経て2003年退社。その間、敏腕編集者として数々の作家を育て上げた。優れたエッセイストとしても知られ、著書に『イワナの夏』がある。現在、毎日新聞書評を担当中。
 源氏物語に初めて接したのは高校の古典の授業だった。光源氏が次々と女性と関係していく物語にどういう意味があるのか、理解できなかった。ところが社会に出て与謝野晶子の「与謝野源氏」を読み、次第に興味が深まった。やはり大古典だと思うようになった。
 西洋のドンファン伝説は、ドンファンが地獄に落ちて終わる。しかし、光源氏の人生にはそのような批判的なところはない。これは源氏物語を読む上でまず考えなければならないところだ。
 古代の日本においては「権力」は土地を支配して増大していった。その手段として戦争があった。それがやがて、土地の有力者の娘と契ることよって、土地の霊力を得たものが、その土地を治めるという風に変わっていった。そういう政治=祭司的支配の記憶が源氏物語の基層にある。ある意味、光源氏という男は、関係した女性たちの霊力を吸い取り「自分の力」にしているからだ。
 源氏物語を楽しむポイントとして、あの時代の結婚の形を知っておくべきだ。平安中期は「婿取り婚」だった。つまり家というものは女系で維持した。そんな結婚の形を知れば、例えば、明石の君の心や行動も読み解けると思う。
  源氏物語の女性たちのなかで一番好きなのは六条御息所だ。生霊、死霊として現れる怖い女性だが、彼女の存在は人間の儚さ、ものの哀れを伝えて、物語の陰影を深くしている。
あの時代の背景や風俗を知り、源氏物語に新たな発見をしてほしい。